家を出ると肌寒くて、秋だ、と思った。少し涼しくなるだけで身体の動きが違う、それくらい今年の夏は暑かったし、本当に終わるのだろうか、四季はなくなったのだろうか、と思ってしまうほどのものだった。来年はより暑くなると知り合いが言っていて、まじかよ、と思ったがあり得なくはない。小学生の頃に30℃を超える事なんてめったになかった気がしているのだが記憶違いだろうか、30℃を超えるとそれだけでニュースになっていたような記憶がぼんやりとある。
快速電車で石巻へ。松井さんが監督した「私だけ聴こえる」というドキュメンタリー映画の上映会。「コーダ」という耳の聞こえない親を持った、聞こえる子供を対象にしたドキュメンタリー映画だ。自主上映会を初めて企画者側で経験した。上映はお昼頃から3回やった。スクリーンでこの映画を観るといつの間にか表情に目が行っている事に気がつく。ろう者の親とろう者ではない子供のコミュニケーションの微妙な距離感が表情に出ている。手話言語が表情を言語として使っていることもあるだろう。コーダの少年少女はろう者と聴者の間の存在として、自らのアイデンティティのよりどころのなさに悩まされている。生きる世界は聴者の世界だが母語は手話言語だ。つまり、聴者の世界で生きている間は母語の外へ出なければいけない。アイデンティティの不確かさと母語の外での生活が彼(彼女)らにのしかかっている。観ていて感じたのはアイデンティティを明確にすることへの強い欲求があることだ。コーダという中間の存在者としての世界を確立することへの欲求。難しいのはアイデンティティを確立すれば、その枠から漏れ出す人が出てきてしまうことで、そこから漏れ出した人がまたアイデンティティを確立しようと躍起になるという循環が生まれることだ。個人的にはアイデンティティはその時々で変わっていくと考えているので、確かな枠組みとしてのアイデンティティを求めるという価値観の違いを感じながら観ていた。
夜は近くの銀河というお店でジンギスカンを食べて打ち上げをする。その後、グランドホテルの浪漫亭へ行って解散かと思ったが、守さんと朝までバーで飲むことになった。寝て起きると強烈な二日酔い。やってしまったと思いながら風呂に入って在廊のためにギャラリーへ行った。